「九郎さんが悪いんでしょう!」


「お前の方だ!」


日常と化した口論が、再び館中に響き渡る。


「まあまあ、二人とも。ここは仲良くしましょう」


「譲君は黙ってて!」
「譲は黙っていろ!」


変なところで息の合う二人は八つ当たりのようにそう叫ぶと、
互いに背を向け、別々のところへと歩き出した。














きすみー ぷりーず














「はあぁぁぁ…」


望美は、今までにない程に大きなため息をつく。






毎回毎回、顔を合わせるたびに口論をしてしまう。

それが、毎回些細なことで。

九郎の性格はわかっているのだが、どうしてもいつもこうなってしまう。

本当は、こんなに好きなのに。






師走の平泉は、景色も息も全てが白い。


今日は聖夜     クリスマスであった。


本当なら、九郎も誘って二人で星空を見る予定だったのだが。


空からはしんしんと雪が舞い散り、隣には九郎は居ない。


「いっつもこうなっちゃうんだよね…」


再び大きなため息をつき、近くの大きな石に腰を下ろした。






逢いたい。






そう思った瞬間だった。


雪を踏みしめる足音が聞こえ、望美は顔を上げた。


「ここにいたのか」


「九郎さん…」


来てくれた…と顔がほころんでしまいそうになるのを抑え、
望美はすぐに顔をそらす。


「…何の用ですか?」


「べ…別にお前に用があるわけじゃない!
その…そう! 星を見に来たんだ!」


明らかに不自然なごまかし方をしながら、九
郎は望美を背中合わせに腰を下ろした。


互いにムスっとしながら会話を交わすが、すぐに沈黙が生まれる。


喧嘩をするつもりではないのに…謝りたいのに、いつも素直になれないのだ。


「…なんでそこに座るんですか?」


「…星が見えると思っただけだ」


「…星、見えませんよ」


今日は雲がいっぱいだから…と、寂しそうに望美は空を見上げた。


見上げた暗い空からは、ちらちらと真っ白な雪が降っている。


「残念だ…」


九郎も空を見上げ、白い息を吐く。


「…今日は、お前たちの世界では聖夜と呼ぶんだろう?」


「え…?」


「将臣が言っていた。恋人は、聖夜に祝うものだと…」


恋人…と、九郎の口から出たその言葉が嬉しくて、
はにかんだような…だが怒っているような不思議な顔になってしまい、望美は俯いた。






思い出されたのは、今日の口論の原因。

クリスマスの今日は「どうしても一緒に出かけたい」と言った望美と、
「今日は出かけなければならない」と断った九郎。

町で出かけた九郎の隣には、見知らぬ女性が居て。






「…俺は、その…お前のことを恋人だと思っている」


見えなくても耳を赤くしながら言っているのだろうとわかるほど、その声は緊張している。


恥じらいながらも、偽りのない真っ直ぐな言葉。


「…じゃあ、あの女の人は?」


「あれは…」


言葉を詰まらせる九郎に、望美は一層うなだれる。






やっぱり。






そう思った瞬間、突然ふわりと首元が涼しくなった。


「九郎さん…?」


「…この前、髪が邪魔だと言っていただろう。だから…」






    結い紐を買っていたんだ。






髪を結い終え、九郎は「すまなかった…」と呟き再び背を向ける。


「女物はよく知らないから、店の人に一緒に選んでもらった」


「私の…ために?」


振り返り、望美は九郎の背を見つめる。


「…お前以外に誰がいるというんだ」


「そっか…」


ほっとして…嬉しくて、望美は微笑んだ。


「機嫌は…直ったのか?」


「あ…」


喧嘩中だったということを思い出し、望美は再び背を向ける。


「…まだ怒ってます」


「どうしたら許してくれるんだ」


ため息交じりに九郎は振り向く。






キスしてくれたら、許してあげます。






九郎はきょとんとしたまま望美を見つめる。


「きす…とはなんだ?」


「…これです」


少し頬を赤らめながら振り向くと、望美は九郎の頬に己の唇を寄せた。






触れるか触れないかの軽い口付け。






九郎は顔を真っ赤に染め、黙り込む。


「…九郎さんからしてくれたことってないんですよ。知ってました?」


まっすぐと、望美は九郎をじっと見つめる。


しばらくの沈黙の後、不意に望美と九郎の視線がぶつかった。






そして。






望美のその身体はふわりと包まれ、そっと唇が重ねられた。


九郎からの初めての口付けは、とても優しくて甘くて。


そして、とても暖かい。


「…別にお前に言われたからではないからな。俺が…したかったからだ」


照れくさそうに目をそらす九郎に、望美は嬉しそうに微笑んだ。

















雪降る聖夜。

恋人からの贈り物は、甘く優しい口付け。




















うん。九郎はムツカシイ…。てか、また喧嘩ネタですみません(汗)
いや〜タイトルで噴出したりしそうですね(笑)
でも一生懸命頑張って考えたんです!!(でもこれが限界…笑)

















「私のために買ってくれてたなら、そう言ってくれればよかったのに…」


肩を並べて歩きながら、望美は頬を膨らます。


「それでは意味がない」


かたくなに言い切る九郎に、望美は不思議そうに首を傾げる。






本当は、眠っているお前の枕元に置いておくつもりだったんだ。






望美は照れくさそうな九郎の姿を、嬉しそうに 眺めていた。












望美だけの、意地っ張りなサンタクロース。























将臣の入れ知恵です(笑)
将臣はいろんな所で出没してますね(爆)


















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